接客の壺 接客物語

吉田さんと2つの仕事6 

高見は、吉田の気持ちを察しながらも話を進めた。

「品出しなんだけど、出来るだけ早く並べて、お客様に見ていただきたい。
でも、お客様が質問されたら、そちらの対応をきちんとしたいと思うんだ。
では、品出しはということだけど、いつものように並べていると、時間がかかるようであれば、
まずは並べるところに商品を出して、その後にディスプレイを考える方法もある。
それが工夫だと思うんだ」

「……」

吉田は、まだ黙っていた。
そんなことはわかっている。
自分としてはずっと工夫をしてきたつもりだった。

「吉田さん、どうしたらいいか、何か気付いたことがあったら言ってくれないか」

陳列が、完成間近ということもあり、吉田は、先ほどよりも少し落ち着いてきていた。
小さな声で言った。

「どちらが優先かと言われたら、品出しが優先になってしまうんです。
逆に、接客が優先となると、自分のタイプだと、品出しが中途半端になるんです。
違う仕事を同時にこなすのが難しいです」

「よくわかるよ。僕もそうだから」

高見の言葉を聞いて、吉田の顔が急に明るくなった。
そして高見の顔を見て言った。

「え~、高見さんがですか」

「そうだよ。お客様の対応をしていて品出しが遅れてくると、頭がパニックだよ」

「え~、そうなんですか。信じられません」

吉田は、高見から発せられた言葉に驚きを隠せなかった。
高見も自分と同じ気持ちだったとは。

吉田は、先ほどまでとは違い、
高見の表情から何かを読み取ろうと、しっかりとした視線を高見に向けた。

「そうなんだよ。何年やっていても、この点がまだまだなんだ。
自分なりに工夫はしているつもりなんだが」

吉田は、高見に自分の心を見透かされているような思いになった。

「吉田さん、1人で頑張ることも大切だけど、人に頼むことも大切だよ。
品出しが遅れそうで、手が空いていそうな人がいたら、お願いしてもいいんだ。
たった10分でも手伝ってもらえると随分はかどる。
商品の案内の場合もね。
自分しかいなければ案内する必要があるけど、手が空いてそうな人がいれば頼めばいい。
ご案内お願い致しますって言ってもいい」

「はい。ですが、先輩たちに頼むことはなかなか…」

「そうだね。
でも、常に考えていたいのはお客様のことなんだ。
先輩に頼まないとお客様の対応が遅れてしまう。
そうなるとお客様の期待に応えることが出来なくなってしまう。
もちろん、何でもかんでも頼んでしまうと、先輩たちも、自分の仕事が遅れていってしまう。
そのため、いかに早く陳列が出来ないかを考える。
それが仕事じゃないのかな」

高見は、吉田の表情が緩んできているのを見て、

「お客様に商品を買っていただける店作りをしていきたいと思うので、よろしく!」

と言って、その場を離れようと吉田に背を向けた。

吉田は、その背中に向かって、

「あ、はい」

と大きめの声を掛けた。

高見は、吉田に背を向けたまま、右手のこぶしを握り、高々と手を挙げた。

吉田は、自分はけっこう仕事が出来るようになったと思っていた。
特に品出しは、入社時に比べてずいぶん早くなっていた。
だからこそ、接客をしている間に遅れることが嫌だった。

だが今回は、そのことが裏目になって、お客様から苦情を言われてしまった。

自分の考え方は、間違っているのか。
高見の言うことは頷ける。
だが、どうしたら両方が出来るのか。

吉田は、考え込みそうになった自分を振り払った。

『よし!まずは、品出しに全速力だ。もう少しで終わる。
やっぱり時間内には、やり遂げたいんだよな』
おわり

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