吉田さんと2つの仕事   

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高見が言った。

「仕事が、品出しだけならば、いかに早く作業をするかを考えれば良い。
でも、店を開けている以上、接客がある。
接客していたので、品出し出来ませんでしたでは、
いろいろな商品があるのに、お客様にご覧いただけるチャンスを逃がしてしまう。
でも、品出しを重視したら、お客様のご質問やお客様の気持ちの変化に気付けない。
どうしたらいいんだろう」

「……」

吉田は、黙って聞いていた。
不愛想な態度を見せながらも、高見の顔を見られなくなっていた。

「もうすぐ陳列が終わると思うので、少し考えみてくれないか」

高見は再度言った。


吉田は、引くに引けない状態になっていた。
上司に向かって反抗的な態度をとってしまった自分にも、腹立たしい気持ちが沸いてきた。
だが、謝る言葉も出てこなかった。

『では、どうしろと言うんだよ』
『どうしたら良いんだ』


「まずは、陳列を完成させよう」

高見はそう言って、傍を離れていった。
冷静に、冷静に、と話をしたつもりだが、ヒートアップしている自分に気づいたのだ。
そういう時は、時間を置くことに限る。
高見は、過去の経験から、そんな論理を導き出していた。

高見は、吉田がほぼ陳列を完成させたころにやってきた。

「お、きれいにできたね」

高見は、吉田に笑顔を向けた。
吉田は、まだふてくされた表情をしている。
高見の目を見ようとしない。

高見は続けて言った。

「どうだ、考えてくれたかい」

吉田は、黙っていた。
こんな短時間で考えられるはずがない。
考えることが出来るなら、最初からそうやっている。

吉田は、まだ高見の言葉を受け入れられない自分を感じていた。
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