吉田さんと2つの仕事   

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高見は、だんだん怒りを感じていた。
だが、自分に言い聞かせた。
『冷静に…』

「吉田さんが、頑張って品出しをしようとしているのはとても良いことだと思っている。
頑張っている姿を見るのは、本当にうれしいよ。
でも、これからも、こういうことがあると思うので言っておく。
品出しって、何のためにするんだい?」

吉田は、少しふてくされたように、当たり前のことを聞くなと言わんばかりの表情で言った。

「それは、お客様に買ってもらうためです」

高見は、吉田の目をしっかりと見て言った。

「そうだよね。
品出しは、お客様に買ってもらうためにするんだよね。
では、今回のようにお客様が商品の場所を聞かれた時、
品出しが優先だからと、放っておいても良いと思う?」

吉田は、またムッとした表情をして言い返した。

「放っておいたわけではありません。傍まで案内をしなかっただけです!」


高見は、思わず、

『なんだ、その言い方は!』

と、言葉が口から飛び出しそうになった。

高見は、その気持ちを飲み込み、冷静さを取り戻すため、次の言葉まで数秒の間を空けた。
そして言った。

「お客様に購入していただくために品出しをするんだよね。
だとしたら、お客様に買いたいと思っていただける対応が必要じゃないかと思うんだ」

「それなら、品出しはどうしたらいいんですか」

相変わらず、吉田は挑戦的な言い方をしてきた。

「午前中にやらなければならない、でも、お客様が…。
そんな時、いかに合理的な仕事をするか、考えるチャンスに出来ないだろうか。
いつもと同じ方法、いつもと同じ陳列では難しいかもしれない。
だったら、どうしたら良いかを考えてみるんだ」

「そんなこと言われても、自分なりにしっかりとやっています」

「それは十分わかってる。
だから、考えてみようと言っているんだ」

「……」

吉田は、無言になった。

このまま高見と話していても、堂々めぐりになる気がした。
吉田としては、もう一言言いたかった。

『では、午前中に品出しをしなくてもいいのですか』と。

だが、言うのを止めた。

高見が『だから考えてほしい』と言うだろうことが想像出来たからだ。
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