吉田さんと2つの仕事   

(3)        (1) (2) (3) (4) (5) (6)

「吉田さん、さっき、お客様からウオーキング用の靴について、何か聞かれた?」
吉田は、品出しの手を休めずに答えた。

「はい、場所を聞かれました」

「それで、場所まで案内したの?」

「いいえ。
今日は、品出しが多いので、どこにあるかを伝えました。
ですが、分かりやすい場所なので、お客様は分かったと思います」

相変わらず、作業を続けながら返事をした。
高見は、少し腹立たしい気持ちになっていた。

『上司が話をしているのに、手を休めず、作業を続けているとは』

「吉田さん、そのお客様が、苦情を言ったんだよ」

この高見の言葉を聞いて、吉田は、初めて手を止めて高見の顔を見た。

「えっ? どんな苦情ですか」

と、少し強張った表情を高見に向けた。

「いろいろと聞きたいことがあったのに、案内してくれなかったと…」

吉田は、やってられないというような表情を高見に向けて言った。

「でも、案内していたら、品出しが出来ないですから…。
自分としては、分かりやすく説明しましたし、お客様も靴の方に歩いて行かれましたから」

「場所のこともあるが、いろいろと聞きたいことがあったのに、ということのようだよ」

「でも、そんなことに応えていたら、品出しが出来ないですから」

高見は、この言葉を聞いて、厳しい表情になった。

「品出しが遅れたとしても、お客様のご要望を聞かないと…」

吉田は、高見の言葉を受けて、少し強めに言った。

「そうしたら、午前中に品出しが出来なくなってしまいます!」


高見は、それより更に強い口調で言った。

「品出しも大切だけど、お客様の対応をしないとね。
先ほどのお客様、結局何も買わずに帰ったよ!」

「では、午前中に終了しなくても良いということですね!」

吉田は、高見に食ってかかるような言い方をした。
*** *** *** *** ***
 前に戻る≪≪(3)≫≫続きを読む
  (1) (2) (3) (4) (5) (6)