現場の真実<2>苦情メール   

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「佐藤さん」

イタリアンレストラン「ブレイク」の朝礼が終わった後、
沙希は、パートである島津に呼び止められた。

鬼頭は、この店がオープンした時から務めているパートタイマーで、
全従業員の中でいちばん勤務歴が長く、店のことをよく知っている。


「はい、あ、おはようございます」

「おはようございます。
ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

鬼頭は、少しきつい口調で言った。
沙希は、その言い方に尻込みしながら、

「あ、何ですか」

と、少々怪訝な表情を浮かべながら言った。

「佐藤さん、店長に何か言った?」

「何かって、何ですか」

「店長に呼ばれたんだけど、
この前の苦情メールに書かれていた従業員が誰だか知っていますかと聞かれたの。

その言い方が、どうも私のことを疑っているように聞こえたから。
佐藤さん、従業員の中で、最初に店長に呼ばれていたけど、
私のことについて、何か言ったんじゃないの。
だいたい、個人面談なんて、今まで一度も行ったことないのに、何だか変だよね」

沙希は、ドキッとした。

『店長は、わたしだけではなく、
個人面談をして、犯人が誰かをあぶりだそうとしているのか。
ということは、私を疑っているのではなく、ホールにいたメンバー全員を疑っている……?』

「私、何も言っていません。
鬼頭さんの名前も出てきませんでした」

沙希は、鬼頭の言葉を全否定した。

鬼頭は、沙希にとってやりにくい存在だった。

社員はあなたしかいないから、いろいろと指導してなどと言ったかと思うと、
そんなことをやっていてはダメなどと言われる。
どのように付き合えば良いのか、苦慮していた。
そのため、鬼頭から声を掛けられると、咄嗟に身構えてしまう自分がいた。

「じゃ、なぜ店長は、私に聞いたのかしら」

と鬼頭は言った。

「わたし、本当に知りません」

沙希は、懇願するように言った。
鬼頭との関係を、これ以上複雑にしたくなかった。

「ふーん、でも何だか変よね。急に」


鬼頭はその日、沙希とほとんど目を合わせることなく、仕事をしていた。


『店長は、なぜあんなことを言ったんだろう。
ますます鬼頭さんとの仕事がやりにくくなるのに』

沙希は、ちらっと店長のほうを見た。

店長は、いつもと同じように仕事をしていた。

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