現場の真実<2>苦情メール   

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由美は言葉を続けた。

「お客様が、スカートを指示して、この色違いないですか、って聞かれたんだけど
その色しかなかったので、ないですって答えたら、対応が感じ悪いと苦情になったの。
わたしとしては、ないから「ないです」と答えただけなのに。

店長に呼ばれて、もう少し感じの良い対応をしなさいと叱られたの。

色違いがないので、ないですと答えただけなのに、
なぜ苦情になるのか、
私の対応のどこに問題があるのかわからなかったから、
叱られている意味がわかりません、なんて店長に言い返しちゃったの。

そうしたら、その言い方も問題がある、なんて、またまた叱られちゃって」

沙希は、由美でも店長に叱られることがあるんだと、
新しい発見でもしたような気持ちになって聞いていた。

「でもね、後から考えてみたら、お客様に、親切な態度じゃなかったな、なんて思うのよ。
ないからないと応えたけど、お客様って、ある無しだけじゃなかったのではないかって。
もちろん、同じ形で他の色を要望されていたんだけど、
他の色で、同じような形のスカートなどをお見せすれば良かったのでは、なんて。
店長は、特に何も言わなかったんだけど、
お客様の気持ちをもっと理解しようとする心を持ちなさい、
と言いたかったんじゃないかと思って。
叱られた時は、私は絶対に悪くない、という気持ちだったから、
反抗的な態度をとってしまったけど」

沙希は、由美が自分自身について的確に分析している様子に驚いた。

「やっぱり、由美、すごい。
何だか尊敬しちゃうなー。
それにひきかえ、わたしなんか」

「何言ってんのよ。
ただね、忙しくてやんなっちゃう、なんて言っていたり、
名指しのことだけを取り上げて怒っていたりしているので、
何だか私の失敗を言いたくなっちゃった。
私たちって、仕事の姿勢に問題があるのかもよ」

由美は、お菓子に手を伸ばし口の中に入れた。

『仕事に対する姿勢に問題ある?』

沙希は、由美の言葉を反芻した。


しばらくの沈黙の後、沙希は少しおちゃらけてみせた。

「そうだったのか。
優秀な友も、店長に叱られることがあるということがわかっただけでも、
少し、気が楽になった」

「何よ。
それって褒められてるのか、けちつけられてるのかわかんないじゃないの」

由美も、おどけて言葉を返してきた。

「私の心を救ってくれた友よ。
精一杯褒めてるんだけど」

2人は、目を合わせて声を出して笑った。

「ねえ由美、
お客様に満足してもらうって、私、正直、どうしたらいいか、わからないの」

「わたしだって、わからないわよ。
ただ、店長に叱られた時、
確かにわたしは、お客様の要望に応えたいと言う考えはなく、
ないからない、と言っただけだった。
どんな色が好みなのかも聞こうとしなかったし、
どんな形が希望なのかも知ろうとしなかった。
ないものはないので、それ以上の答えは見いだせなかった。
ここに
問題があるのではないかと店長は言いたかったのかもしれない。
何が言いたいんですか、はっきり教えてくださいって言いたくなったけど、深呼吸してひっこめた」


沙希は、目を大きく開いて言った。

「そうか、そういうことか」


由美は沙希の顔をまじまじと見て言った。

「何かわかったの?」

「わかるわけないじゃない。
そんなに簡単にわかったら、わたしは天才よ」

「またまた、お調子者が」

2人の表情は、どんどん明るくなっていった。

「由美、ありがとう。
少し、本当に少しだけど、光が見えた感じがする」


次の日、由美にとってまたまた事件が。

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