現場の真実<2>苦情メール   

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沙希は、杉田がなぜ自分を呼び出したのかをすぐにでも知りたい欲求が高まってきた。

「あの〜」

と杉山を上目使いで見ながら言った。

杉山は、沙希の気持ちを察してか

「そうそう、本題に入るね」

と言った。
本題という言葉に、沙希の表情に緊張が走る。

「今回、こういうメールをいただいて、仕事について改めて考えさせられたんだ。
今まで、苦情という苦情もなく過ごしてきたけど、
ひょっとして、お客様は不満に思っていることが多いのではないか。
また、以前は良く来店してもらえていたのに来られなくなったお客様もいるのではないか。

お客様が減ってきたのは、近所に店が出来たからとか、
こういう時代だから仕方がないなどと思っていたけど、違うんじゃないかって。
今回のお客様のメールで、気づかされたんだ。

こんなことを、新入社員の佐藤さんに言うのも変なのかもしれないけど、
ホールで社員は、君だけなので話をすることにした」

沙希は黙っていた。
店長の言っていることはわかるが、意味が理解できなかった。
ただ、杉山が沙希に言いたいことは、このことではないようには思えた。
沙希は、杉山の次の言葉を待った。

「佐藤さんの今の仕事振りを見ていると、頑張っていることはわかる。
でもね、常にパートさんたちの指示を聞きながら仕事をしているように見えるんだ。
佐藤さんは、パートさんよりも長い時間店にいるので、
いろいろな時間帯のお客様を見ていると思う。
そこで、そろそろ、パートさんに言われて仕事をするのではなく、
どうしたらお客様に喜んでもらえるか、考えながら仕事をしていってもらいたい。
僕がいない時は、ホールの責任者は、社員の佐藤さんなんだから」

沙希は、杉山の言っていることはわからないわけではないが、納得できなかった。

『なぜ急にこんな話を?
苦情のメールをもらったことから、なぜホールの責任者の話になるのか?』


沙希は、応えようがなく、黙ったままうつむいた。
杉山は、言葉を続けた。

「初心に戻って、良い店づくりをしたいと思うので、佐藤さんの力を貸してほしい」

沙希にとって、杉山の話は唐突で理解できなかった。
皆の前で名指ししたのは、自分を疑っているせいではなく、頑張ろうと言いたいのだろうか。

沙希は、自分の質問を杉山にぶつけたくなる衝動にかられた。
だが、期待する回答を得られるとも思えなかった。

言葉を失った沙希は、この場から逃げたくなった。
沙希は、逃げるための言葉を探した。


そして数秒後、口を開いた。

「今までは仕事を覚えることで一杯いっぱいでした。
マニュアル通りにすることがまず大切だと思っていました。
これからは、指示されたら動くだけではなく、
指示される前にどうしたらお客様に喜んでもらえるか考えながら
やるようにしたいと思います」

杉山は、まだ言い足りなさそうな表情をしていた。
だが、オープン前の忙しい時間帯が、沙希の気持ちを後押しした。

「ではよろしくお願いします」

と杉山は笑顔で言った。

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