現場の真実<2>苦情メール   

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「はい、買いました」

「そう、よかったね。バイクが買いたくてバイトしてるって言ってたものね」

「……」

山田は何も応えなかった。沙希は、どのように話をしようかと言葉を選び
ながら言った。

「乗り心地はどう?」

「そりゃあ、いいですよ」

と言うと山田の表情が明るくなった。

沙希は、山田の顔をまじまじと見た。
すると、山田の表情は一変してきつくなった。
そして窓の外に視線を送った。
何かを言われることを避けているようにも見えた。

「山田君、仕事どう?」

「どうって、どういう意味ですか」

山田は、少しつっけんどんと応えた。

「ううん、体調が悪くて休むのは良くわかるんだけど、以前は、休むこともなかったから」


以前のような明るい山田は、ここにはいなかった。
無表情で、沙希の顔を見ようとしない。
 
沙希は思った。
人は、その時々で、気持ちが大きく変化するものだと。
1、2分の沈黙だったかもしれない。
山田は何かを決心したのか沙希の顔を見て言った。

「何が言いたいんですか。
僕が、ずる休みをしたとでも言いたそうですね」

「…………」

沙希は、山田の挑戦的な言い方に対して、どのように返答したら良いか考えあぐねていた。
だが、沙希も決心したかのように根幹に話を進めた。

「山田君、私ね。
黙っていようと思ったんだけど、どうしても気になって」

「……」

「なぜ、急に体調が悪くなったのかって。
本当に体調が悪いのかもしれないけど、バイクと関係があるのではないかと思って」

「どういう意味ですか」

山田は、怒ったような声で沙希をにらむように言った。

「今日の山田君は、つっけんどんとしているわね」

「そりゃあそうでしょう。
何だか疑いが掛けられているようですから」

山田はきつい目つきで言った。

「遠まわしに言うことができないので聞くけど、
お店の忙しい土日は、バイクに乗りたいんじゃないかなって」

「……」

山田は、一瞬沙希の目を見たが、すぐそらしてしまった。

「バイクの乗り心地の素晴らしさはわからないけど、バイクが買いたくてバイトしたら、
買った時には、毎日でも乗りたい気持ちになるような気がするの」


また2人の間に沈黙が流れた。


5分程度だろうか。
沈黙の後、沙希が口を開いた。



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