現場の真実<2>苦情メール   

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新入社員の服部からそのことを聞いた沙希も、疑問に思った。

「なぜ、もういいです。
出ますので」

と言われたのだろう。

その後、このお客様らしき方から、苦情のメールが届いた。


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『先日、お店に伺ったものです。
少し遅い昼食をとるために店に行ったのですが、
厨房のほうから「お客様が入っちゃった」という声が聞こえてきました。
店は開いているのに、「お客様入っちゃった」はないのではないでしょうか。
こちらとしては、いたたまれなくなり、何も食べずに店を出ることにしました。
お店に、時々食事をしに行っているのですが、
今まで見たことのない方に対応していただきました。
もう少し、教育を徹底すべきではないかと思い、メールさせていただきました。
会社の近くにあるため、今後も利用したいとは思いますが、
こういう対応は、二度と受けたくありません』

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店長からこの文面を見せられた時、やっと沙希はお客様が帰られた意味がわかった。


佐藤は、早速、服部を呼んだ。

「服部さん、覚えていないかもしれないけど、
ディシャップで、お客様が入っちゃった、と厨房担当者と話をしなかった?」

「あ、はい、しました。
忙しくて、やっと一段落できそうな時だったのに、
お客様が入られたので、厨房の方に、申し訳ないと思って、
「一息付けるかと思ったら、お客様が入っちゃいましたね」と言ってしまいました。
良くなかったのでしょうか」

「その内容を、お客様は、どうも聞いていたようなの。
苦情メールをいただきました」


服部の表情が一瞬にしてこわばった。
しばらく黙った後、服部は小さな声で言った。

「すみません。
聞こえるような声では言わなかったのですが」

「そうね。
でもお客様には、聞こえてしまったんだよね」

「はい。
もう少し、小さな声で話さないとお客様に聞こえてしまうんですね」


「そうね。
ただ、小さな声で話すとか話さないとかという問題ではないように思うんだけど」

服部は、またしばらく黙って、益々小さな声で言った。

「すみません」

「う〜ん、私もえらそうなことは言えないんだけど。
服部さんは、厨房担当者の人をねぎらうつもりで言ったとしても、
それは、お客様にとっては、気分が悪いことよね。
声の大小というよりも、こういうことを厨房の人と話をしていることに対して、
お客様は、怒っているようにも思えるの」

「………」

「謝ることはないわよ。
つい言ってしまうことあるもの。
この前、ホールで話をしていた時、お客様に叱られたでしょ。
お客様には、打ち合わせであっても、私語に見えてしまう。
ちょっと視線があっただけでも、自分のことを噂されているのではないかと思われてしまう。
今回は、お客様に姿が見えていなくても、
私語が聞こえたら、見えている時と同じように、お客様は、嫌な気分になるんだよね」

「何だか、お客様と接することが恐くなってきました」

「そんなこと、ないわよ。
失敗しながら勉強よ。
厨房の人に、気を配ったこと自体は、とてもよいことだと思う。
でも、お客様に来ていただいてお給料をもらっているということは、
せっかく来ていただいたお客様のことを、たとえ声がお客様に聞こえなくても、
「来ちゃった」というような言い方は、どうなんだろう」


「………」


「一緒に、考えていこう」
 
佐藤は、服部を見て微笑んだ。

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