現場の真実<2>苦情メール   

(32)     (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
       (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20)
       (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29) (30)
       (31) (32) (33) (34) (35) (36) (37) (38)




沙希は、その夜、なかなか寝付けなかった。

『なぜお客様は、悪口を言っていると思ったのかしら。
また、こちらを見てニタニタしているなんて。
悪口も言っていないしニタニタもしていないのに』

沙希の頭の中で、

『なぜ』
『なぜ』
『なぜ』という言葉がうごめく。

『服部さんと話をしている時、お客様のほうを見たつもりはないけど、
お客様からすると、自分のことを見られたと思ったのかしら。
ということは……』

ここで、沙希は、ハッとした。

『見たつもりはないけど、お客様は、私たちと視線があったと思ったということか。
ということは、見ていなくても、顔の向き、視線の方向で、お客様は見たように思う』

『ということは、私たちは、お客様のほうを見たつもりはなくても、
顔の向き、視線に気をつけなくてはいけないということになる。
お客様のほうを見た、見ないということよりも、お客様から見た時に、そう思わせてしまうことがある』

『そう思わせてしまうようであれば、お客様の前で、話をするのは良くないということなのか。
でも、ニタニタなんてしていないのに』

またまた
『なぜ』
という言葉が頭を駆け巡る。

『これも、笑っているつもりはなくても、
お客様から見た時に、表情が笑っているように見えたら、ニタニタなんだよね。
そう言えば先日、洋服を買いに行った時、遠目からこちらを見ている販売員の人がいたけど、
ジーッと見て、それこそニタニタしているように見えた。
2人の販売員の人が同じ位置に立って、長くではないけど、
こそこそっと話をしている様子を見て、感じが悪いと思ってサッとその店から出てきたんだっけ』

沙希は、寝返りを打った。

『そうか。
接客側は、そんなつもりはなくても、お客様としては、視線が合ったように感じると、
自分のことが噂されているように思うってことか。気をつけないといけないな。
新入社員が入ってきたので、先輩ぶった気持ちが出てきたのかもしれない』

沙希は、自分なりに、お客様の気持ちが見えてきた。

『さあ、これからは、お客様から見える位置での私語は気を付けよっと。
いくら事務的な連絡であっても、お客様にとってみたら、そうは思えないのだから』

沙希は、やっと眠りに入った。

明くる日、またまた事件が起きた。


昼のピークが終り、お客様が途切れた時、
ホッと一息つけるかと思ったら、そこに、一人のお客様が来店してきた。

新入社員の服部は、
「いらっしゃいませ」
とお客様に席を案内した後、
ディシャップに来ると、
「一息付けるかと思ったら、お客様が入っちゃいましたね」
と厨房担当のパートに声掛けした。
 
その後、オーダーをそのお客様のところに聞きに行くと、
「もういいです。出ますので」
とその一人客。

「ご注文は」

と服部が聞くと、何も言わずに、サッサとお店を出て行ってしまった。
この出来事を、服部は沙希に報告した。


「……お客様、なぜ出て行ってしまったのでしょうか」

*** *** *** *** ***
 前に戻る≪≪(32)≫≫続きを読む
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
  (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20)
  (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29) (30)
  (31) (32) (33) (34) (35) (36) (37) (38)