現場の真実<2>苦情メール   

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「だから、上司の立場で考えるんだよ」

と健志が言った言葉に対して沙希が言った。

「もう、ちゃかしちゃって」

「ちゃかしているんじゃなくて、上司の立場に立つんだよ」

「もう〜、わからない。
たけちゃんって、時々わけのわからないことを言うんだよね。
昔から」

「何だよ。
その佐藤の言い方も、昔から変わらないなー」

そこに由美が話を割って入った。

「ちょっと、ちょっと。
今は、上司の立場に立つって話でしょ」

「そうそう、そうだった。
さっきさー、上司からポスター貼りを頼まれた話をしたよね。
あれの続きがあるんだ」

「どんなこと」

「あの件から少し経って、今度は、先輩からポスター貼りを頼まれたんだ。
「はい」とは受けたものの、その時、他の仕事をしていて。
最近入ったアルバイトがいたので、その子にポスター貼りを頼んだんだ」

「先輩から頼まれたことであっても、アルバイトに任せるのは良くないことじゃないの」

と由美が言った。

「そりゃあわかっているけど。
その時忙しくて。
そのアルバイトに、あそこの壁にきれいに貼っておいて、と頼んだんだ」

「たけちゃんらしい」

「そうだね」

と由美と沙希は言った。

「ちょっとした上司気分を味わいたくってさ。
それが、このアルバイト、ポスター貼りを頼んだ後、なんて言ったと思う?」

「そんなこと、わからないわよ」

「なんて言ったんだ」

「両面テープで貼ったほうが良いですか、
それとも、普通の押しピンでいいのでしょうかって聞いてきたんだ。
俺、びっくりした。
俺は、上司から言われた時、何も聞かずに押しピンで貼り付けたんだ。
そこでそのアルバイトに言ったんだ。
どうして、両面テープということを思ったのかって。
そうしたら、せっかくのポスターに穴をあけないほうが良いのかなと思いましてということだった。

そこで、ポスターを貼るための専用のテープがあるので、それで貼ってくれって頼んだんだ。
そうしたら、それは、どこにありますかと聞いてきた。
なんせ、聞くことが的確なんだよな。
貼った後、手が空いた時に、見てほしいと言ったので見に行くと、俺が貼るよりもきれいに貼ってある。
そのアルバイトに、きれいに貼ったねと声を掛けたら、
この位置だとお客様に一番みてもらえるかと思いまして、これで良かったでしょうか、と聞いてきた。
負けたと思った。
このポスター貼りを頼んだ先輩が後できて、きれいに貼ってくれたね、
と声を掛けてきたので、アルバイトの牧野さんに貼ってもらいましたと言おうとしたんだけど、
そのまますぐ傍を離れていかれたので、結局言うことができなかったんだけど」

「ということは、たけちゃんの手柄になったわね」

「そんなこと言うなよ。
手柄にしようと思ったわけじゃないけど、言いそびれたというか、言えなかったと言うか」

しばらく無言だった徹が言った。

「何となくわかり掛けてきたよ。
上司が何を期待しているのか、それに応えようとしていなかった自分のことが」

「上司と部下との関係も、相手を思うということではお客様と一緒だね」

「そうね。相手を思うことなんて、あまりしてこなかったので、
何か起こった時、つい自分を弁護してしまう考え方になってしまうのよね」

「さて、徹も元気になってきたことだし、飲みまくりますか」

「何言ってんの。
既に、十分飲みまくってるくせに。
これで割勘はひどいよ」

「何いってんだよ。
徹が元気がないので、代わりに飲んでやってるんだ」

「そうか。
それも、相手を思う気持ちね」

「お、宮本よ。
わかってくれたか。俺の気持ち」


4人は、目を見合って大笑いした。

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