現場の真実<2>苦情メール   

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「…… ……」


徹はドキッとした。
今まで考えてもいなかったことを、沙希に投げかけられたからだ。

『こちらは言われた通りしている。
だが上司はそんな仕事を頼んでいないという』

この言葉が、徹の頭の中で繰り返された。

その時、健志が徹に声を掛けた。

「まあ、一杯飲めよ。徹の気持ち、よくわかるけど、佐藤が言うのもわかるな。
上司が徹をいじめるために言っているとしたら問題だけど、
そうではないとしたら、そこに何かがある、なんてね」

名探偵コナンが、眼鏡のブリッジを抑えて、何かがわかった時の表情を真似てか、
健志は、眼鏡を掛けてはいないが、鼻を抑えながら言った。

「何、その態度!」

と皆は笑った。
一気に場の雰囲気が明るくなった。

「確かに。今まで、自分は正解、上司に問題があるなんて思っていた。
なぜ上司がそんなこと言うのかなんて考えてもいなかったな」

そこで由美が声を掛けてきた。

「私もそういうことがあったの。
沙希には言ったんだけど、以前店長に叱られて。
何が良くて、何が良くないのかわからなくなっちゃったから、
店長に、叱られている意味がよくわかりません、て言い返しちゃったの。
そうしたら、その言い方が、人にものを聞くときの態度かなんて、またまた叱られちゃって。

後で考えたら、店長は、お客様の気持ちをもっと理解しようとする心を持ちなさい、
と言いたかったんじゃないかと思ったの。
叱られた時は、私は絶対に悪くない、という気持ちだったので、反抗的な態度だった
と思うよ」

「うーん、みんないろいろとあったんだ。
そういう話を聞くと、俺だけじゃないってホッとするよ。
でも、今回の場合、なぜ上司が、言われた仕事をしていないって言うんだろう」

徹は、また考え込むような表情をした。
健志は、徹の表情をみながら明るく言った。

「それって、簡単に言えば徹が上司の期待している仕事をしていないってことじゃないのか」

徹は、健志の言葉を受けて、両手の掌を天井に向け、少し首をかしげて言った。


「健志、回答が簡単すぎるよ。
俺、今まで何を悩んでいたのかわからなくなる」

「ごめん、ごめん。だってそういうことじゃないのか。
上司が期待していた仕事って何かということだよね。
もう少し、詳しく状況説明してくれよ」

徹は話し始めた。

「特にどれが原因というわけではないとは思うんだけど。
新入社員で入ったころは良かったんだ。
どんなことをしても、とにかく元気よく返事をし、報告していたら、
「頑張っているね」と褒めてもらっていた。
それが、だんだん
「行って欲しい仕事とは違うんだよね、もう少しきちんと仕事をしてもらないと困るよ」
という言葉に変わってきたんだ。
今までと同じことをしているのに、最初は褒められ、後になると叱られでは、何がなんやらわからない」

「最初は褒められ、最近は叱られ。
それって、入りたてのころは、元気な挨拶を褒められていて、
仕事のことについては、まだ言われていなかったんじゃないの。
例えば、上司のして欲しい内容の仕事ではなくても、
まだ新人だから仕方がないと思ってもらえていたのかもしれないよ」

健志が言うと、沙希が言った。

「そうね。
最初からは何もできないので、大目に見ていたとか」

「それを、徹君は、仕事振りを褒めてもらったと勘違いしてしまったということは考えられない?」

と由美が言った。
徹は、呆れたような、でもうれしそうな複雑な表情をしながら言った。

「みんなきついこと言うなー。
そうか。俺って、褒められているとばかり思っていた。
先輩を見て、自分のほうが仕事ができるなんて感じていたぐらいだ」

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