現場の真実<2>苦情メール   

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少なくとも、お客様は、怒って帰ってしまった。
料理が遅いという事実と、山田の対応に腹を立てたことも事実であろう。


では、どうすれば良かったのか。

沙希は、以前であれば山田と同じように対応していたような気がする。

山田の対応は、一概に間違いとは言えないだろう。
だが、お客様が腹を立てたということは、
今回のお客様にとっては、山田の対応は良くなかったと言える。


山田にどう説明したらいいか。
 
山田の表情には反省はなく、
誰がオーダーを聞いたのか、
そのスタッフが悪いという気持ちを持って沙希に話してきたことがわかるからだ。

「そんな対応したら駄目じゃないの?」

と言うのは簡単だが、
今そんなことを言っても、山田はわかってくれないのではないかと思った。

そこで沙希は、

「山田君、バイト終わった後、お茶でも飲みに行かない?
時間ある?」

「おごりですか。いいっすよ」

「じゃ、わたしの休憩時間に、お茶をおごるわ」

2人は、喫茶店に行った。

「佐藤さんにおごってもらうの初めてですね」

「たまにはいいでしょう。
で、何飲む?」

「では、カプチーノを」

「山田君、お腹は空いていない?
ケーキでも食べようか」

「あ、うれしいな。
では、お願いします」


ケーキを食べながら、沙希は切り出した。

「山田君、今日のお客様の苦情の件なんだけど」

「そのことだと思った。
何かないとおごってくれることなんてないよね」

「ま、そりゃそうだ」


2人は、見合って声を出して笑った。

「山田君、なぜお客様は帰っちゃったと思う?」

「その応えの前に、佐藤さん、最近変わりましたね」

「何が」

「どう言えば言いかわからないけど、仕事に対して前向きになったというか。
アルバイトの僕が言うのも変ですけど」

「そう?ありがとう。
私もよくわからないんだけど、最近疑問に思うことが増えてきたの。
これで良かったのかな、なんて」

「へぇー」

「で、山田君、お客様は、なぜ帰ったと思う?」

「だって、料理がなかなかこなかったから、怒ったんでしょ」

「そうだよね。
では、そのお客様にどのように対応したら良かったと思う?」

「そりゃあ、早く料理を出すことでしょう」

「そうだよね。
では、どうしたら早く料理を出すことができるんだろう?」

「急にそんなこと言われても……。
困っちゃうな」

「山田君は、料理が遅いと言われて、誰が注文を取ったかを気にしていたよね」

「だって、僕、そのお客様からオーダー聞いていなかったから」

「確かに山田君は、オーダーを聞いていなかった。
でも、お客様がしてほしいことは……」

「早く料理を出してほしい。
何だか事件みたいですね」

「そうだね。
では、どうすれば良かったのか」

「お客様のオーダーが通っているか確認し、
通っていなければ、もう一度伺って、できるだけ早く料理を作ってお持ちする」

「すごいじゃない。山田君」

「そうですか。
ということは、俺、お客様に嫌な対応したことになるな〜。
料理を早く出そうとするのではなく、誰がオーダーを聞いたかどうかのほうが気になって。
だって、怒ったような顔で言われたので、
ついオーダーを聞いたのは自分じゃないっということを言いたくなっちゃって」

「その気持ち、すごくわかる。
わたしもずうっとそうしてきたから。
でも今日の山田君の対応見ていて気づいたの。
お客様がしてほしいことは、誰がオーダーを聞いたかではなくて、
料理を早く出してほしいことだって」

「そうか。失敗しちゃった」

「お客様には、大変申し訳なかったけど、山田君は、良い勉強になったね。
そして、わたしも、山田君から勉強させてもらった」

「え〜、それって嫌味ですか」

「そんなことないわよ。
ただ、お客様のオーダーを伺って忘れてしまった、
また、オーダーがしっかりと調理場まで通っていなかったとしたら、これも問題よね。
誰がオーダーを聞いたか聞かないかというよりも、全員再度、確認していく必要があるね」

「佐藤さん、本当に変わってきましたね。
何だか上司みたい」

「何いってんの。
一応上司だけど」

2人は、またまた大笑いした。

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