現場の真実<2>苦情メール   

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明くる日、開店時間がやってきた。

『早速笑顔でお客様をお迎えしよう。
昨日の練習成果は出せるかな』

沙希は満面の笑みで

「いらっしゃいませ」

と、常連のお客様に声を掛けた。

「朝から明るい笑顔で気持ちがいいね。
今日は、何か良いことでもあったの?」

「特に何ということはないのですが。
そう言っていただけるとうれしいです。
ありがとうございます」

と、沙希はこれ以上できないくらいの笑顔をお客様に向けた。

『何だか気分がいいな。
今までの感覚とはまた違う快感。
もっと笑顔でお客様をお迎えしたくなる。
こちらが笑顔で挨拶をすると、お客様も笑顔で返してくれる。
鏡の関係なんだ。

今まで苦情があった時、
こちらもムッとした表情をお客様に向けていたんだろうな』


そんな時、古参パートの鬼頭が声を掛けてきた。

「佐藤さん、今日は何だか生き生きしているように見えるけど何かあったの?」

沙希は、鬼頭にも満面の笑みで応えた。

「あ、ありがとうございます。
特に何かあったわけではなく、もっと笑顔で対応しようとしているだけです」

『鬼頭さんが、笑顔で話し掛けてくれた。
笑顔って、すごい威力があるみたい。
気持ちが優しくなれるんだもの』

沙希は、お客様に来店いただきうれしいという気持ちが持てるようになると、
笑顔でお客様と接したくなってしまう自分に気が付いた。 


そんな時、お客様から苦情の声が。

「頼んである料理まだですか」

「申し訳ございません」

傍にいたアルバイトの山田がお客様に声を掛けた。

この後、山田の対応で、またまた事件発生。 

「誰に注文されましたでしょうか」

「誰って言われても、そんなこと覚えているわけないでしょう」

「で、ご注文の料理は?」

「もういいよ」


お客様は、怒って席を立ち帰っていってしまった。


アルバイトの山田は、沙希の傍に来てこう言った。

「お客様帰っちゃった。
誰が注文受けたのかな。
オーダー通っていないみたいですよ」

「で、山田君、お客様に何て言ったの?」

「すみませんって謝った後、誰に注文しましたかって聞いたんだ」

「えー。そんなこと言ったの?」

「だって、僕オーダー聞いてないから、何の注文かわからないので」

「お客様、何て言われたの?」

「そんなこと、覚えていないって」

「当たり前じゃない。
いちいち覚えているわけないでしょう」

「えー。僕は、飲食店に行って、誰に注文したかぐらい覚えていますよ」


「……… ………」


沙希は、この後、言葉を続けることができなくなってしまった。
どう説明したらいいのか。

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