現場の真実<2>苦情メール   

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沙希は、デパートを出て地下街を歩き始めた。

『あの店の販売員、歩く客を観察しているような表情を向けている。
何だが感じが悪い。
あちらの販売員も店頭で仁王立ち。
これでは、お客様に店に入るなって言っているような感じさえする。
販売員の表情、態度で、こんなに店に対する印象が違うんだ』


相手をホッとさせる表情。
笑顔まではいかなくても、優しい印象の表情。
逆に、口元は笑っているように見えても、
目が笑っていないため、怖い感じさえさせる表情。
気持ちを感じないマニュアル的な表情など、
笑顔と言ってもいろいろあることに沙希は気づいた。

また、初めて行くお店で、満面の笑みで迎えられると、
何だか買わされる、下心でもあるのではないか、なんて思ってしまった。
満開のような笑顔も、マニュアル的に見える時がある。

お客様との親密度によって、笑顔も変わるのではないか。
また笑顔から真顔へ急速に変化させている接客者がいたが、感じが悪かった。
気持ちのない計算された笑顔に見えた。

『そうか。
一見笑顔に見えても、お客様を大切に思う気持ちがなければ、
お客様は心を感じないんじゃないか。
それこそ、その場を繕うための笑顔にお客様は感動しない』

 
沙希は、笑顔が大切ということは知っていたが、
実際には、それほどまで意識していなかった。
おかしくもないのに笑うこと自体、違和感を覚えていたともいえる。
だが今回、いろいろな接客者の対応を見ていると、
いかに笑顔が大切かがわかったような気がした。

また、たとえどんなに訓練しても、
お客様を思う気持ちがなければ、
それはとってつけたような表情になってしまうことも感じた。

いろいろな店の接客者の動きを見ると、勉強になる。


沙希は、お客様がいらっしゃったら、気持ちの良い挨拶で迎えたくなってきた。

『わたしって、どんな表情でお客様を迎えていたのだろう。
あ!、お化粧室に行ってみよう。
自分自身の表情を見てみたくなった』


早速、お化粧室の鏡の前に立った。
周囲には人がいない。

『今だ』

沙希は、鏡に向かってほほ笑んだ。

「わたし、こんな表情でお客様に対応しているの。
笑顔じゃない。
何だかきつい表情。
今日は、人の評価ばかりしていたけど、私自身に笑顔がない。
これでは、お客様は感じが良いとは思わない」

沙希は、鏡に映った自分の顔を見ながらつぶやいた。


そんな時、人がお化粧室に入ってきた。

沙希は、顔に映っていた表情を真顔に戻した。
そしてそのまま鏡を見続けた。


『わたしは、自分自身が想像する以上に、お客様を感じずに仕事をしてきたようだ』

沙希の頭の中に、お客様と接している様々なシーンが浮かんできた。


沙希は、帰宅後、鏡に向かって笑顔の訓練をした。

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