現場の真実<2>苦情メール   

(19)     (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
       (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20)
       (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29) (30)
       (31) (32) (33) (34) (35) (36) (37) (38)



健志は、興味深そうな顔で聞いた。

「それは、本来の性格は変わり難いってことよ」

と沙希は言った。

「何だよ、それ」

「だって、学生の時から、
人の顔を見たら、おごってくれ、おごってくれって言っていたじゃないの。
思い出したのよ」

「当たり前だよ。
性格がそんなに変わったら、会っても別人だから、つまんないじゃないか」

「そういう屁理屈をつけるのも、たけちゃんだ」

「はいはい、これが俺だよ。安心だろ。
俺が立派になっていたら話もできないぞ」

2人は、目を見て笑った。

あくる日の朝、いつものように、イタリアンレストラン「ブレイク」の
朝礼がスタートした。

「おはようございます。
今日は、笑顔について、皆さんにお願いがあります。
先日お客様から、この店のスタッフは、笑顔がないですね、と言われてしまいました。
お客様には、気持ちの良い笑顔で対応してください」


朝礼が終わり、沙希はアルバイトの山田と古参パートの鬼頭と会話した。

「笑顔かー。
言葉は簡単だけど、笑顔って難しいんだよね」

と沙希は話しかけた。


「そうですね。
これって笑顔に見えますか」

アルバイトの山田は、ニタッと笑って、沙希の顔を見た。

「う〜ん、笑顔というよりも、何だか気持ち悪い」

沙希と鬼頭は、山田の表情を見て笑った。


「気持ち悪いって、何ですか。
良い笑顔じゃないですか」

沙希は山田の表情を見て、笑顔というよりも、
昔テレビで見た、志村けんの「変なおじさん」を思い出していた。

急に忘れていた記憶が呼び戻されてきた。

『山田は、このテレビは見たことがあるのか』

わからない時は、口に出さないほうが良いだろう、
などと思いながらいると鬼頭が声を掛けてきた。

「山田君、それは笑顔ではないでしょう。
作り笑顔と言うか、いやいや気持ち悪いよ」

沙希は、

『さすが鬼頭さん。
ズバッと言いたいことを言うね』

と、自分が言いたかったことを代弁してもらえたことが、なんだか嬉しかった。

「笑顔で接してください、なんて言われたら、作り笑顔になってしまいますよ」

「それじゃダメよ。
心からの笑顔でなくってゃ」

「鬼頭さん、私って笑顔でお客様に接していますか。
今まで、笑顔で接するなんて意識していなかったのですが」

と沙希は、鬼頭に質問した。

「特に笑顔という訳ではないけど、そんなもんじゃないの」

と鬼頭は、差し障りのないような言い方をした。

『うーん、鬼頭さん、私に対して、まだひっかかりがありそうね。
今まで、鬼頭さんの言うことは何でも聞いていたんだけど、
最近の佐藤は生意気、なんて思っているのかもしれない』

沙希は、古参パート鬼頭の言動に、まだまだ、わだかまりを感じていた。

お客様が店内にいる時は、鬼頭に話しかけられても、
以前のように、話し込まないようにしている。
せいぜい
「かしこまりました」
「ありがとうございます」
程度に留めている。

それは、お客様から見た時、話の内容がどうであれ、私語に見えるだろうと思うからだ。

仕事に関しての内容であれば、お客様から見えない位置に移動を促し、
そこで話を聞くようにした。
最初は、ムッとしたような表情をしていた鬼頭だったが、
最近は、話掛けること自体が減ってきている。

『笑顔が大切ってよく聞くけど、一体何だろう。
普段は、考えてもいなかったけど、店長からあえて笑顔と言われると、
何が笑顔かわからなくなってしまう。
それに、鬼頭さんが言うように、心からの笑顔でなくては、なんて思うけど、心からの笑顔って何?』

*** *** *** *** ***
 前に戻る≪≪(19)≫≫続きを読む
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
  (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20)
  (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29) (30)
  (31) (32) (33) (34) (35) (36) (37) (38)