現場の真実<2>苦情メール   

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「そうだ。
そうだったんだ」

沙希は、周囲に客がいることを忘れ、大きな声で言った。

「何だよ」

「うん、ちょっとした気付きよ」

「気付きって」

「うん、今健志君の話を聞いていて、
そういえば、〇〇スーパーでって話をしていたら、私が感じたことと同じことを、
先日のお客様は、私の態度から感じられたんだって思ったの」

「何だよ。
よくわからないなー、お前の話は。
自分が分かっていることは、周囲も分かっているという話し方だよな。
変わらないなー」

健志は、呆れたような表情でおどけて見せた。
沙希は、健志の言葉に反応するよりも、自分の気づきに酔ったような表情を見せていた。


「あのね。
数日前に、お客様から私語を注意されたの。
でも私は、それは仕事の話だから仕方がないじゃない、なんて思っていたの。
でも、お客様の立場に立った時、仕事の話だろうと私語だろうと、
そんなことはわからないわよね。
店の中で、固まって話をしていたら、私語に見えるもの。
客のことを放ったらかして何をしているの、なんて思っちゃうよね」


健志は、沙希の変化に気づいた。

「うーん、ちょっとどころかすごい気付きじゃないの」

「うん。
何だか元気が出て来た。
もやもやっとしていたことが、少しわかりかけたような気がする」


サンドウィッチを食べながら、2人の会話は、
「お客様の視点」というテーマで盛り上がった。


そんな時、健志が、

「すみません。
お水ください」

と少し遠くで立っている接客者のほうを向いて、声を掛けた。

健志の声が聞こえなかったのか、接客者2名は立ったまま何か話を続けている。
再度健志は、より大きな声で、

「すみませーん。
お水くださーい」

と言った。

接客者の一人が、

「はーい」

と返事をして水を持ってきた。

この様子を見ていた沙希は、

「たぶん、今、私が、お水を持ってきた接客者に感じていることを、
あの時のお客様も、私に感じられたんだ。
たけちゃん、ありがとう。
何かつかめたような気がする」

沙希は、自分が働いている時の感情と、客の立場で接客者を見る時の感情の違いに、
この時、やっと気づいたような気持ちになった。

「お客様のために」と店長から言われ、自分もそう思っていたつもりだったが、
常に「自分」の気持ちを優先した考え方をしていることに、
この時、気づかされたような思いになった。

「私」を中心に、お客様を見ていると、「私」が強くなり、
お客様のいろいろな感情が見え難い。
だが、お客様を中心に置いて見ると、お客様の感情を読み取ろうとする気持ちが出てくる。


健志は、サンドイッチを食べながら言った。

「安いサンドイッチ代じゃないか」

「うん、本当にそう思う」

「じゃ、次の時もよろしく」

健志は、またまたおどけて見せた。

沙希も、少しおどけた表情で言った。

「もう1つ、わかったことがある」

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