現場の真実<2>苦情メール   

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沙希は、入社した時、自分の意見をパートさんに言った。
だが、ことごとく反対された。

それ以来、沙希は自分の意見を言うのをやめ、
店長、パートさんから言われることに従うようにした。

そうするほうが、人間関係に波風が立たなかった。
ただ、その間、沙希は考えることを置き去りにしてきたような気持ちになった。

言われたことのみするのは、考えていないことと一緒だ。
今日のようにお客様から苦情を言われても、
どうしたら良いのかと、ただうろたえてしまうだけだった。


沙希は、何が何だかわからなくなった。
意見を言えば人間関係に亀裂が起きる。
それをやめると、何かが起こった時の対応方法がわからなくなる。
沙希は、仕事からも逃げたい衝動を覚えた。

『今まで、自分が行ってきたことは、何か違うような気がしてきた。
何が違うのかはわからない。
でも、何かが違う気がする』


沙希は、仕事が終わった後、同級生の斉藤健志が働いている家電量販店を訪れた。

健志は、学生の時から、電気関係に興味を抱いていた。
というのは、家中にあるほとんどのモノが電気と関係しているからということだった。
水が無ければ生きていけない。
電気がなければ楽しい人生を送れることができないなどと、健志流に考え方を持っていた。


量販店の中に入ると、健志の

「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ」
「ありがとうございます。また、お願い致します」

という元気な声が聞こえてきた。


沙希は、この声を聞いただけでも、元気になれるように感じた。
健志の声を頼りに、売場を歩いて行った。

「たけちゃん、ひさしぶり」

と声を掛けると、びっくりしたような表情をしながらも笑顔で、

「おー、何だよ。
何にも連絡がないと思ったら、急に来て」

「連絡してくればよかったんだけど、急に働いている姿が見たくなって」

「どうだ、俺の勇姿は」

健志は、威張ったような態度を沙希に見せた。
沙希は、その姿を見て、大笑いした。

「たけちゃん、無口だった学生の時と大きく違うのでびっくり」

と話し始めようとすると、健志がそれを遮った。

「あ、ゴメン。
今、仕事中なので、ちょっと待っててくれる。
あと少しで退社時刻になるからさ。
店の丁度前に、「和み」という喫茶店があるので、そこで待ってて?」

「あ、ごめんね、仕事中に。
わかった、待ってる。
私のことは気にせず仕事してね」


沙希は、健志の傍を離れて、「和み」という喫茶店に向かった。

歩きながら、沙希は思った。

『たけちゃん、仕事人になったな。
仕事中なのでって言われてしまった。
わたしだったら、話し込んでいたかも。
何だか、周りの人がどんどん成長して、私1人、ほっぽり出されたような感じがする』


沙希は、先ほどのウキウキした感じとは逆に、沈んだ気持ちになってきていた。

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