現場の真実<2>苦情メール   

(13)     (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
       (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20)
       (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29) (30)
       (31) (32) (33) (34) (35) (36) (37) (38)



「すみません。只今、お持ちします」

と沙希は声を掛けた。


慌ててコーヒーを持っていくと、そのお客様は、

「私語ばっかりして。
コーヒー持ってくるまでに、何分掛かるのよ」

と怒りをぶつけてきた。


「申し訳ございません」

と沙希は、またどぎまぎしながら言った。

「本当に遅いわね。
その角にあるファミリーレストランは、注文したらすぐ持ってきてくれるわよ」

「申し訳ございません」

「申し訳ございませんしか言えないのね。
まあ、いいわ」


「 ………… 」

沙希は、またまた何も言えなくなっていた。


「申し訳ございません」以外、どのように言えば良いのかわからなかった。
心臓の鼓動がより高まってきた。

沙希は思わず、

「すみません」

と言った。

そしてその場を立ち去った。

『ああー。今日は何という日か』


『私語をしているって言われたけど、今、鬼頭さんと話をしていることだったのか。
鬼頭さん、やっと声を掛けてくれたので、
あの時、話をしなければ、またいつ声を掛けてくれたか。
でもお客様から見たら私語に見えたんだ』


沙希は、どうすれば良かったのかと考えた。


答えは見つからなかったが、少なくともお客様から見える位置で話をすると、
私語に見えてしまうということを感じた。

それならば、バックヤードで話をしたほうが良いことになる。
そうなると、鬼頭にバックヤードで話をしましょうと言わなければならない。

だが、鬼頭にしてみたら、そこまでして話をする必要性を感じていないのではなかろうか。
また、沙希が鬼頭に対して指示をしているような印象を与えるのではなかろうか。

『そうなると、せっかく話しかけてもらえたのに、
また会話ができなくなってしまうかもしれない……』


沙希の頭の中で、いろいろなシチュエーションが浮かんできたが、
どの考え方も、納得のいくものではなかった。


だが、一つ発見したことがある。

それは、お客様から見える位置での会話は、
お客様にとって私語に見えてしまうということだ。

今まで、話したい時に話していたような気がする。
私語と言うよりも業務的な話が多いので、気にもしていなかった。

暇な時は、立ったまま私語をしていた。
いつのまにか話に夢中になって、
今回のようにお客様にコーヒーを催促されて持っていくこともあった。


『お客様って、けっこう接客者の動きを見ているんだ。
こんなこと、今まで感じたこともなかった。
私、今までどんな気持ちで仕事をしてきたんだろう』

*** *** *** *** ***
 前に戻る≪≪(13)≫≫続きを読む
  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
  (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20)
  (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29) (30)
  (31) (32) (33) (34) (35) (36) (37) (38)