現場の真実<2>苦情メール   

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沙希が、料理を間違えてお客様のテーブルに提供してしまったのだ。


最初、そのテーブルのお客様から何も指摘を受けなかったため、
間違いに気づいていなかった。

しばらく経って、その料理をご注文いただいた男性客から、

「頼んだ料理まだですか。
もう20分以上も待っているんですけど」

と言われたのだ。


「え、あ、すみません。
もう少々お待ちください」


沙希は、気が動転し始めた。

『どのように対応したらいいのか』

沙希が、ボーっと立っていると、

「まだ作っていないなら、もういいです。
時間がないので」

と客は沙希に声を掛けた。
明らかに怒っている声だった。


沙希は、その言葉を聞くと、ますます気が動転し始めた。

「え、あ、ですが、今……」

「もういいです」

その男性客は、立ち上がった。

沙希は、

「あ、今……」

と訳の分からないことをつぶやきながら、
その客の行動を制止するように、客の前に立ちはだかった。

だが客は、沙希の脇を通って、出入口に向かった。
沙希は、その後ろ姿を呆然と見送った。

しばらくして、沙希はやっとこの事態を受け止めることができた。

急いで厨房に確認にいくと、
注文の料理を他のテーブルに持っていってしまったことが判明した。


『もう、やだ。
わたし、こんなことでは仕事にならない。
お客様のためどころか、鬼頭さんのことが気になって。
店長が、鬼頭さんに変なこと言わなきゃ、私はこんなミスをしなくて済んだのに。
何がお客様に喜んでもらえるようによ』

沙希は、失敗した自分に対する苛立ちと、店長に対する怒りが噴出してきた。

そんな時、またまた、事件が発生した。

「頼んだコーヒーまだですか」

と沙希は、お客様から呼び止められた。

「え、あ、はい……」

沙希は、一瞬たじろいだ。


その様子を見ていた鬼頭が、

「申し訳ございません。只今すぐお持ち致します」

と、お客様に声を掛けた。

その声を聞いて、沙希も、

「申し訳ございません」

と、その客に詫びた。

コーヒーを提供した後、沙希は鬼頭に近づいて言った。

「鬼頭さん、ありがとうございました。わたし、ボーッとしていて」

「何言ってんのよ。
しっかりしてよ」

「すみません」

沙希の目に、キラッと涙が光った。

「佐藤さん、あなた、今日変よ。
危なっかしいというか、どうしたの」

鬼頭の言葉に対して沙希は黙っていた。

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