現場の真実<1>共に育つ   

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「先輩、わたし、どうしたらいいんでしょうか」

新入社員の服部啓子が、悲痛な面持ちで佐藤由紀の傍にやってきた。

由紀は言った。

「どうしたの、そんな顔をして」


服部啓子は、ファミリーレストラン「ハッピー」に今年入社した社員である。
佐藤由紀は、この「ハッピー」に昨年入社した。


ハッピーは、20店舗あるチェーンレストランである。

ハッピーでは、先輩社員が新人の教育にあたる。
昨年度から設けられた制度だ。
女性同士の場合はシスター制度、男性同士の場合はブラザー制度と言っている。
半年間の育成期間を経た後、「ハッピー」各店舗に配属されていく。


制度が実施される前までは、多くの新入社員が1年も経たずに辞めていった。
それを食い止めるための方法として、
身近に相談できる先輩が必要ではないか、という意見が現場からあがってきた。
また、同性のほうが、相談しやすいという声もあり、この制度が採用された。

昨年は、入社4年目、5年目のベテラン社員が担当する方法が取られた。
だが、社歴が浅い社員のほうが、新人の気持ちに近く、より相談にのれるのではないか、
また新入社員に教えることで、教える側も再度基本の見直しができるのではないか、
という意見が、昨年シスター、ブラザーとなった社員から寄せられた。

そこで2年目の今年から、1、2年前に入社した社員が、
新入社員のブラザー、シスターになるという方法を取ることになった。


由紀のシスターは、入社5年目の先輩だった。
半年間のシスター制度が終わって、この店に配属されてきた。

そして半年後に、啓子のシスターになった。


啓子は、話を続けた。

「鈴木さんに怒られたんです」

「え? 怒られた?」

と由紀は、啓子の言葉をオウム返しした。
すると、啓子は

「はい」

と言った後、うつむいてしまった。



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