調剤薬局の出来事   

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▼ 登場人物 ………

調剤薬局にて

松本恵美:大学生3年生
………………………




そう思った時、60代と思われる男性患者が椅子から立ち上がり、
静かにそれでいて力強い声で言った。

「わかりました」

薬局にいた全員が、男性患者に視線を向けた。

「皆さんの言うことはもっともです」

その男性患者は、冷静にそして重みのある少々低い声で言った。
その姿には風格があった。

薬局全体が静まり返った。

「ただ3人の薬剤師が、そこに並んでいると、薬を調剤することができません。
そうすると、ここにいる大勢の方が、いつまで経っても薬をもらえないことになります。
皆さんの言うことはもっともです。
ですが今は、薬の調剤をしてもらってはいかがでしょう」


薬局全体に沈黙が続いた。

数秒後、先ほどの40代らしき女性患者が、薬剤師に視線を向け、言葉には出さず、
仕事に戻るように目配せした。

責任者らしき薬剤師が、
「申し訳ございません」と言い、深々とお辞儀をした。それに合わせて他の2名の薬剤師も
深々とお辞儀をした。

そして、3名ともに調剤室に入っていった。


意見を言った60代男性患者は、その後何もなかったように座り新聞に目を下ろした。
他の患者も、今読んでいた雑誌に目をやったり、音の出ていないテレビのある方向に視線を
やったりし始めた。


薬剤師は、調剤した薬を持ってカウンターに出てきて、患者の名前を呼び、薬を渡す。
いつもの風景が戻ってきた。

一部始終を見ていた恵美は、言葉には言い表せない感動に浸っていた。


『途中、どうなってしまうのかと思ったけど。患者さんはすごい。
言うべきことは言うけど、今何をしなくてはならないのかを、患者さん同士が解決していった。
そして尾を引いていない。なんだかすごいドラマを見たような感覚だ』


恵美の薬もできあがり、お金を払って調剤薬局から外に出た。
空を見上げ、思いっきり深呼吸した。

緊張感から解放された気分と、充実した気持ちがこみ上げてきた。



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