調剤薬局の出来事   

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▼ 登場人物 ………

調剤薬局にて

松本恵美:大学生3年生
………………………




若い男性患者に連絡先を書くように促していた責任者らしき薬剤師は、

「すみません」

と言ったものの、男性患者が連絡先を書くのを待って調剤室に入っていった。

指を挟んだ女性患者の傍にいたもう1人の薬剤師は、救急絆創膏を取りに調剤室の中に入った。
そして、その患者の薬と救急絆創膏を持って出てきた。

その女性患者は、薬の会計を済ませた。
その間、ほとんど口を聞かなかった。
薬剤師が救急絆創膏を貼ろうとするのも拒否した。

そして調剤薬局から出ていった。
その後ろ姿を、会計した薬剤師が追いかけた。
外に出たところで追いつき、

「申し訳ございませんでした。
救急絆創膏、もしよろしければお使いください」

と再度言って頭を下げた。

指をはさんだ女性患者は、返事もせず、救急絆創膏も受け取らずに、その場を去っていった。
薬剤師は、その後ろ姿をしばらく見送った後、調剤薬局に戻ってきた。


薬剤師全員が、調剤の作業に取り掛かり始めた。

若い男性患者に名前と連絡先を書いてほしいと言った責任者らしき薬剤師が、カウンターに出てきて
1人の患者の名前を呼んだ。
その患者は、カウンターに行き、薬を受け取り、会計を済ませて薬局から出て行った。


その時、先ほどの若い男性患者が、会計を終えたこの薬剤師に近づき、
きつい視線で、声のトーンを落として言った。

「先ほど名前を書かかされた者ですけど、
なぜ、名前と連絡先を書かなければならないんですか」


責任者らしき薬剤師は言った。

「本部に知らせなくてはいけないので……」

「本部に知らせるって、何を知らせるんですか。
僕は、何も悪いことをしていません。
それなのに、名前を書く必要があるんですか」

若い男性客の声は、どんどん大きくなって言った。その声は震え、怒りが益々
こみ上げてきていることがわかる。

その時、スーツを着た30歳代らしき男性患者が声をあげた。

「そうだ、名前を書く必要はないじゃないか」

その声を聞いて、今まで雑誌に視線を落としていた40代らしき女性患者が顔を上げ、
少し怒っているような声を出した。

「その方は全く悪くないです。
悪いのは、薬局の方じゃないですか」


この声を聞き、調剤室にいた薬剤師2名も薬を渡すカウンターに出てきた。
40代らしき女性患者は、言葉を続けた。

「壁に、自動ドアが開きます、お気をつけください、などの紙を貼ったり、
患者が怪我をしないように、よく観察するなどの必要があったんではないですか。
薬局側が悪いのに、入って来た患者がいかにも悪いように名前を書かせるのは問題でしょう」

その女性患者は、
名前を書かされた男性患者の気持ちを代弁するように、上ずった声で言った。

薬剤師三名は、カウンターに並んでいた。


全員の表情がこわばっている。

そんな時、責任者らしき薬剤師が口を開いた。

「すみません」

今にも泣きそうな震えた声で言い、頭を下げた。

一見、テキパキと仕事が出来そうな40代半ばの薬剤師だが、
先ほどに比べ、一回り小さくなったように見えた。

他の2名の薬剤師も、それに合わせるように頭を下げた。


恵美は、この様子を見ていた。
薬局全体に緊張感が走っている。
 
『ど、どうなっちゃうの』



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