キャンセルをめぐって   

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▼ 登場人物 ………

居酒屋にて

清水勇二:飲食店勤務 25歳
矢部友也:勇二の友人 25歳

野崎  :お客様
………………………



「それは、特殊な状況だよ」

勇二は、少し強い口調で言った。
そして店の言い分を主張し始めた。

「それって、特殊な状況だし、5人で人数が少なかったからじゃないか。
店長いわく、止むを得ない事情でも、店としては困るって。
予約のお客様には、特別メニューを作っているからさ。
材料費、それを作るための人件費、もろもろを合わせると相当の出費だよ。
売上にならず、逆に赤字になってしまうってことだから……」


「確かに、店の立場に立てばそうだな。そういうことを客側に伝えたのか」

「言わなかった。会社の決まりなので、しか」

友也は、

「フーン」

とだけ言った。
友也の返事に、勇二は納得がいかなかった。

「でも、そんなことはわかるだろう。
わざわざ準備していることぐらいは」

と言葉を足した。

友也は、勇二の気持ちを知ってか知らずか、おもむろに、

「そうかなー。
自分の職場のことはわかるけど、
携わったこともない飲食店の事情なんてわからないと思うよ。
自分たち用に食材を準備しているなんてことも思わないんじゃないか。
いつも店で出している料理だろうって。
他の客に出せばいいんだから、なんて」

と言った。

勇二は、先ほどよりは落ち着いた声で言った。

「えー?、そんなものか。
部屋だって、その客のために取ってあるから、他のお客さんの予約が取れない。
店としては、売上減なんだよね」


「確かにそうだが、客側としてはそんなことまでいちいち考えないよ。
自分たちの止むを得ない事情のほうが優先だよ」

勇二は、少し考え込んだ表情を見せながら言った。

「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「それは、俺もよくわかないけど……。客と言っても、いろいろなタイプがあるだろうし。

店の考え方じゃないのか。
どんな事情があっても、キャンセル料を取る店もあるだろうし、
今回のように、取れなかったというケースもあるだろうし、
最初から取らない、という考え方のところもあるだろうし、
ケースバイケースというところもあるだろうし、
もちろん、料理内容によっても違うだろうし。

ま、客の立場で言えば、どうしようもない時は、事情を理解してくれってことかな」


友也は、ビールを美味しそうに飲んだ。

勇二は、友也のこんなところが好きだった。
人の話を真剣に聞いているようで、どこかひょうひょうとしている。

勇二は、友也に話すだけで気持ちが少し楽になっていた。


「今回のことで、店長からは予約の時にキャンセル料のことを
しっかりと言うようにって言われたんだけどね」

と勇二は言った。

「そうか……」

と友也は言い、たまご焼きを口に頬張った。



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