#2 接客研修の変遷 

企業の接客に対する意識が高まったのは、
1970年代、アメリカからファースト・フードチェーンが進出してきたことが大きいと感じている。

このファースト・フードチェーンの従業員教育方法が、
短期間ながら熟練者なみの対応をさせるものだったからである。

多くの企業責任者は驚愕したのではなかろうか。

多くの経営者は、この短期間育成教育を自社にも取り入れたいと考えた。
なぜなら、それまでの接客研修は、短期間で育成するというよりも、技術習得型であったからだ。
従業員の育成には時間がかかるという前提だった。

だが、短期間であるにもかかわらず、サービスレベルの高い育成方法があることを知った企業は、この教育方法に飛びついた。

この教育方法は、マニュアルを活用して、その通りに接客が出来るようにすることだった。

コンサルタント会社やセミナー会社は、
多くの企業の従業員を集め、マニュアルを活用して短期間で育てるための同質サービス研修を行った。

同質サービス研修とは、それぞれのコンサルタント会社やセミナー会社の自社独自のサービス研修パッケージであり、
クライアントごとにカスタマイズされていないという意味で同質なサービス研修のことである。

この同質なサービス研修を受けたクライアント企業は、
例えばファミリーレストランであれば、企業が違っても顧客に同じサービス方法を実施することになる。
具体的には、お辞儀の角度、手の位置に至るまで同質なのだ。

業界大手の企業に追いつけ追い越せの時代においては、
接客研修を受けることは、さまざまなクライアントにおいて、収益をあげるために必要だった。

それは、短時間でベテランのような対応をすることができるからだ。
人件費という面からしても、短期育成は、収益アップにつながる。
また顧客にとっても、企業が違っても同じようなサービスを受けることは、
従業員教育が行き届いている会社であるという安心感の要因のひとつでもあった。

1980年代後半から1990年代はじめにかけて、日本ではバブル景気と称される好景気となる。

ますます従業員短期間育成のサービス研修は、
クライアント企業にとっての必要性が高まったと考える。

1990年の後半から、日本においても、一回一回の取引より累積的な取引関係の強化である
リレーションシップ・マーケティングの必要性が問われ始めた。
なぜなら、バブル崩壊後は、
市場規模拡大の時代からゼロサム時代に突入し、他社のシェアを奪うことでしか成長はありえなくなってしまったからである。

一例をあげれば、外食産業の場合、
財団法人食の安心・安全財団の外食産業市場規模推計値をみると、
1997年の29兆円をピークに減少していき、平成22年は24兆円を割り込んでいる。
業界によっては市場規模がシュリンクしている時代ともいえる。

このように市場規模拡大時代からゼロサム時代、
業界によってはシュリンクしている時代においては、同質接客研修は、他企業との差別化にならない。

例えば、週2回外食をしている顧客がいた時、この2回とも自社を活用してもらう必要があろう。
そうなると、他の企業と同じでは、どこに行っても同じことになる。

顧客は、市場規模拡大の時代においては安心感を抱いた同質サービスに対して、
時代の変化とともに、どこに行っても同じサービスでは満足しなくなった。
また、どの従業員も同じ対応をするロボットのようなサービスも満足しなくなった。

同質ではなく、顧客ひとりひとりに意識を向けた、個性のあるサービスを求めるようになってきた。
時代は同質から異質、差別化へと進展している。

では差別化するためには、どうするか。

そのひとつの方法として、顧客が自社に何を期待しているのかを知り、
企業として戦略を立て、実施していくことではなかろうか。

もちろん、会社としての方向性を明確に持つ必要がある。
だが、客の期待を知らずして、商売をすることは、顧客の期待を無視していることになるのではなかろうか。
顧客にどのような期待があるのかもわからずに経営をすることは危険である。

また、顧客の自社に対する期待を知れば、自社の強みも見えてくるのではなかろうか。
つまり各企業には個別の強みがあり、それぞれの企業に対して顧客が抱く期待は異なるからである。

例えば、顧客は飲食店を利用しようとした時、
友人と行くなら気楽なA店、
大切な記念日に行くならゆったりとできるB店、
接待ならサービスレベルの高いC店
などと使い分けをするだろう。
それぞれの店に対する事前の期待で選ぶ。
また顧客が期待を持って購買したりサービスを受けたりした時、期待以上であれば満足するであろうし、
期待以下なら満足ではないという気持ちや不満の感情が表れる。
(※Oliver 1980,Heskett 2003,嶋口1984他)

つまり、顧客の期待を知り購買後のパフォーマンスを知ることで、より顧客の期待が鮮明になってくるように思われる。
顧客の期待とは、購買前の期待であり、パフォーマンスとは購買後の顧客の評価である。

顧客のパフォーマンス評価は、
飲食店やホテルなど様々な企業で、一例をあげれば
『当店のサービスはいかがでしたか、大変良い、やや良い、普通、やや良くない、良くない からひとつお選びください』
などという質問紙による調査は多く実施されている。
だが、少ないのが顧客の事前期待調査だ。

購買前の期待がわからなければ、企業に対する、本来の期待が見えてこないのではないか。
期待を知れば、自社の個性に合わせたサービス財ブランドが明確となり、戦略が立てられる。
それは、収益アップにもつながっていくように思われる。

また、従業員が顧客の期待を認知しているということも重要ではなかろうか。
なぜなら、サービス財を提供するのは従業員だからである。

顧客の期待を知らなければ、顧客の期待に応えるサービス財の提供ができないように思える。